ピント

距離は重要である。

ズームできるレンズを持っていないので、何かを大きく写すには自分から近寄らないと撮れないのである。近寄りすぎるとピントが合わないし、かといって離れすぎても写らなくなるけんね、なかなかむずかしい。よく月を見たままの感じで撮りたいとか思うんだけども、ファインダーを覗くとえっらい小さいんよね。米粒。月にはなかなか近寄れないし。おおやっぱり離れてたのかと気付いたりする。遠く離れてても撮りたいものはたくさんある。本当はちゃんとレンズを買えばいいのかもしれないけど、まあ、そういう近寄ったり離れたりするのも面白いじゃないかということにしている。

閑話休題。話は代わる。
心から好きな人がいた。

その人とは長い間離れて暮らしていて、でも、いつか結婚すると思っていて。近くにいられたのは本当に短い時間だったし、すれ違いばかりだったけど、一緒にいられるあいだは魔法にかかったようだった。いや、いまあなた、笑ったけどさ、魔法って存在するんよ。ほんとうに。ただ、魔法は必ず解けるものなんね。解けたまま、その人とはもう会えないままだ。

たくさん撮ったその人の写真は、ピントが合っていないものがとても多い。50mmの単焦点レンズだと相手から一歩離れて撮ってちょうどいいくらいなのに、たぶんいつも一歩、近寄ろうとしてたんよ。いつも離れて暮らしてたし近くにいるときだけでも近づきたかったんね。そのせいで、顔の一部だけだったりピンぼけ写真ばかりである。

近すぎても離れすぎてもまずい。それと一緒で人間の目にはズーム機能がないからさ、相手にピントを合わすには、ちゃんと近寄ったり離れたりせんといかん。相手じゃない、じぶんで動かないと。
距離は重要である。そしてそれ以上に、ピントなんて合ってなくてもいい、「二人の距離」を相手と一緒に探すことが重要なんよきっと。