つづく

短めにしてください、と美容師さんに伝えたら、坊主になってしまった。
なんだろう。これにはだいぶ困った。なにしろ寒いです。坊主になるとこんなに寒いとは思わなかった。というか、坊主にされるとは思わなかった。まあ、伝え方に問題があったのかもしれんけん、しようがない。
そんな、坊主が似合わない男を鏡で見ながら、おれはつくづく思ったのである。生きていて一番せつないのは、もしかすると、つづくことなのかもしれない。
坊主になっても、風邪をひいても、仕事をやめても、試験に落ちても、地震が起きても、嫌われても、どんな絶望的なことが起こっても、明日につづいていくのである。つらいことばかりで大事なことをあきらめても、つづくのである。今日と同じように、天気予報を気にしたり愛想笑いをしたりしながら生きていかなければならない。映画やゲームのようにエンドロールは出てきてはくれない。
おれはなんだか、起こってしまったことそのものより続いていくことの方がせつなくて、こわいです。坊主になることより、明日から坊主で暮らしていくことの方が、こわい。
でもやっぱり、そんなことを言いながらも、なんか、つづいていくのである。そして、髪は伸びていくのである。きっと夏頃にはちょうどいい塩梅になるのである。それは、希望だ。髪は伸びるという、希望だ。坊主になっても終わらずにつづくという、希望だ。ほんとうは、希望と絶望はとても似たもの同士で、本人も知らない間にするすると入れ替わるものなのかもしれん。
つづくことの、恐ろしさと、やさしさを、いい具合に味わいながら生きていきたい。
そしていい具合に髪を伸ばしてパーマをかけたい。