ほんとうの別れ

ここ何週間か、いろんな人との別れが多すぎて、すこし別れに慣れた。慣れってこわいんです。「お元気で」「がんばって」「またいつか」、そんな言葉を相手に伝えるたびに、いつのまにか別れることが、通過儀礼のように、当たり前の儀式のように、そんなふうに感じてしまう。出会うために別れるとか、そんな、都合のいい解釈をしてしまう。人生を、かんたんにまとめようとしてしまう。
でも、出会いは出会いで、別れは別れで、それは、ぜんぜん関係ないことなんじゃないだろうか。その人との出会いは一度きりで、違う誰かとの別れと、一緒に考えるもんじゃない。出会いは、別のものに代わりがきく商品じゃない。別れはそりゃあ、悲しいけれど、それは、これから起こる出会いで拭えるようなものじゃない。
そうして、出会いと別れを離して考えてみると、ちょっと疑問がでてきた。
出会いは、始まりだ。その人と目が合ったときとか、その人を初めて意識したときとか、その人と初めて話したときとか。出会いってそういうことで、そういうのは、なんとなくわかる。じゃあ、別れって、なんだ。その人と、さようならを言う瞬間のことだろうか。その人と遠く離れてしまうときのことだろうか。その人が死ぬときのことだろうか。その人のことを、忘れてしまうときのことだろうか。
出会いの終わりって、どういうときなんだろう。いや、というか、人と人との出会いに、終わりってあるんでしょうか。あ、確かに恋愛じゃあ、終わりは大切よ。かたちでも別れはちゃんとせないけんね。でも、人間と人間が、ほんとうに別れるときって、どんなときなんだろう。
もしかして、人と人とのほんとうの別れなんて、ないのかもしれない。出会って、出会って、思い出して。区切りはとても大切だから、ときどき、かたちで別れを演出したりもするけれどもね、でも、ほんとうの別れじゃない。いつまでも、出会いが続く。そういうことなのかもしれない。