あの子は、背が小さくて、泣き虫で、きゅうりが嫌いで、髪の色がきれいで、34番行きのバスで帰って、少女まんがが好きで、人の誕生日を覚えるのが得意で、頑固で、小さい手で、すぐ顔を赤くして、泣いていて。そんな、大昔の記憶を引っ張り出して、また無力になる。
大切なものに気付くのは、いつも大切なものを失くしたあとだ。そんなこと誰でも知っている。でも、そんなこと知ってるからって、なんになるっていうんだろう。いつも、後悔してばかり。そして、いまそばにある大切なものも、すぐに失くしてしまう。